大雨の、大井川・畑薙第一ダムサイトには21時過ぎに到着した。 他に人の気配はなく、林道の様子を見に行った後、 ダムサイト駐車場でシートを倒して仮眠する。 車のエンジン音に目を覚ますと車が1台止まっており、 運転手が「やぁ、お待たせ!」と笑顔で声をかけてきた! 夢を見ているような瞬間であった。 渓語りの翁・瀬畑雄三師が、私達の為に南アルプスまで来てくれたのだ。 間もなく、仕事を終えてかけつけたDさんと一緒に、 瀬畑さんを囲んで、ささやかな宴が始まった。 宴が始まれば、楽しみは瀬畑さんの渓語り。 平然と話す『身も凍るようなエピソード』に、Dさんも私も身を乗り出して聞き入る。 四十余年もの間、険谷激流を遡り・溶け込み楽しんで来た師の話は、 経験から得た『貴重なもの』がそこかしこに散りばめられているので聞き逃せない。 次から次へと飛び出す話に、驚き、そして感心し、 ゲラゲラ大笑いして時計に目をやればもうこんな時間。 明日(今日?)の本番に備えて、眠りにつくこととした。 |
|
渓語りの翁 私には、憧れの人がありまして、「渓語りの翁」と 呼ばれる『瀬畑雄三』さんが、その人です。 私が、釣り誌で瀬畑さんを知ったのは平成6年の事。 当時、既に全国の大方の深山険谷を歩き渡り、 自ら名付けた滝の名が、そのまま地形図にも採用さ れるなど、渓流釣り界の先駆者・達人として、渓流釣 り師をはじめ、多くの人に敬い慕われていました。 私が、瀬畑さんに対する世の評価を知るのは、もっ と後の事ですが、著書を深く読むほど実感する、自然 界に対する深い知識・鋭い着眼に、すっかり瀬畑さん の世界に夢中になっていました。 とりわけ、瀬畑さんの ● 誠実な人柄 難解と言われ、多くの者が修得できずに断念して いった『和式毛鈎釣のからくり』について易しく説く と共に、過去、自らの達人としての地位を保つべく この釣りを(あえて)難解な物として世に紹介した 者がいた事を指摘。 ● 無怪我 険谷を好み、入り浸ってきた瀬畑さんが、三十 余年重大な怪我をする事無く歩んできた事。 といった面に魅力を感じ、折あることに実感する『真実 ・本質を見極める目・姿勢』に、尊敬の念を深めていき ました。 駒込の居酒屋で聞いた、瀬畑さんの『誰が何と言お うが、俺は俺の信じた道を行く』という言葉は、決して 盲信・蛮勇の類ではなく、知識と経験・技術という裏打 ちがあって、初めて放たれた言葉だと思いました。 |
|
バサッ、バサッ。 物音に気付き、薄明かりの下に目をやれば、パッキングをしている瀬畑さんの姿があった。 必要なものを車のトランクから出し、段取り良く袋に入れザックへと詰めていく。 シーズンの大方を渓の中で過ごしている方とはいえ、非常に手際が良い。 見る間にパッキングは終わり、興味深々ザックを持たせていただく。 軽い!(驚) 聞けば、私達の分の食材も入っているという。 準備を終えたら、我々の車は信濃俣林道の崩落終点を目指す。 瀬畑さんは『崩落がひどいね。東北だと、これほどの崩落は無いよ』と話す。 車を止めると、数年振りの下降点を探す・・・が無い。 どこだっけ?とキョロキョロしていると、 瀬畑さんは『ここを下れるよ、ここから降りようよ』と直ぐ目の前の急斜面を示す。 私は、下る程切り立っていく急斜面に『コ、ココヲ下ルデスカ(驚)』と困惑し、 『チョット待ってください』と必死になって下り口を探し出した。 探し出した山道を下ると、どうやらさっきの斜面下に回り込んでいく。 『な、言っただろ。人が入っている山は、ああいう場所には必ず道があるんだよ。』と瀬畑さんが話す。 瀬畑さんの下り方は、細かく足を置き、決して足を滑らす事の無さそうな歩み。 自然な動作全てが、合理的で勉強になる。 道は間もなく吊り橋に差し掛かる。 ゆらゆら揺れながら、一人ずつ細く長く傾いている吊り橋を渡る。 |
|
千本市女傘 |
椎 茸 |
椎 茸 |
吊り橋を渡ると、瀬畑さんはすぐにヒラタケを発見。 ほうき茸やらあんず茸やらも袋に入れつつ のんびりマッタリ奥を目指す。 途中、毒茸と言われている『ハナホウキダケ』 を発見。 瀬畑さんは『これも食える!』と断言し、 他の茸と一緒に袋の中へと入れてしまった。 |
平 茸 |
暫くは、だだっ広い河原を歩く。 濁りの取れない流れを前に、程好い所で大休止。 流れ脇の『川砂利から染み出す清んだ水』で お茶を沸かした。 『いい物があるよ♪』瀬畑さんのザックから、特製 の漬物と乾燥わさび茶漬けの素が出てきた。 実は、わさび茶漬けがお茶代わり。 驚きつついただいたが、これがまた美味しかった♪ |
山の幸を求めて段丘に入っていく瀬畑翁 |
大休止を終えて立ち上がると、川の濁りが、 取れていた。 狐につままれたような不思議な気持ちで歩き 始めた。 途中、椎茸や千本市女笠の群生に嬉々とし、 マムシの捕まえ方も教えていただいた。 川のぶっつけにポイントが現れると、 イワナの毛鈎釣りの指導を受ける事ができた。 『あそこに毛鈎を打って、こう流すとあそこで イワナが釣れるよ。はい。』 指導のとおりにやってみたら、瀬畑さんの言う 一点でイワナが釣れた! 写真を撮ろうと思い、エラに入れた親指を滑り 止めにして岩魚を持っていると、『魚はこうや って持つんだよ』とエラから指を抜き、包む様 に持つ事を勧めてきた。 それ以降、私は魚のエラに指を入れる事を止 めました。 |
この年、既に一度大型台風がこの渓を荒らしていた。 渓谷のそこかしこに、大増水の傷跡が見られた。 Dさんが流れの脇に死んだイワナの稚魚を見つけた。 瀬畑さんは『自然河川で、こういった形でイワナの亡骸を見るのは珍しい』と話していました。 今度は、私が流れの脇に弱った岩魚を見つけた。 よく観察すると、わき腹に引っかいたような傷があった。 瀬畑さんは『鳥に襲われたんじゃぁないかなぁ』と話し、リリースしようとした私に 『もう死んじゃうと思うから、食べて成仏させてあげなよ』と促しました。 |
|
マムシは、こう捕まえる |
あらゆるポイントを見逃さない |
間もなく小屋に到着。 『やっと休める〜。久し振りに歩いたからへとへとだ♪』と、ゴロンとしようと思ったら、 瀬畑さんとDさんは、休まず『水の確保・小屋の整理・薪集め・かまど作り』などを始めた。 お二人とも、とっても元気。 私は、大仕事と、娘の生誕前後に家内の長期入院もあり、 前年から一年振り?の渓歩き。 重く疲れた体に鞭打ち、斜面の上り下りに挑むも完全に運動不足。 体がしびれる感じでした、ハイ。 二人のお荷物になりながらも、とりあえずの準備を終える。 『後は俺がやっておくから行って来なよ』と瀬畑さんに勧められ、Dさんと二人で釣りに出発。 水の色も水量も良い申し分無いけど、荒れた影響か反応無し。 ごく稀に魚は見えるけど、本当に少ない感じ。 この日は三ツ又で納竿とする。 |
|
信濃俣河内・三ツ又 |
小屋の近くまで戻ると、森の中から 茸を抱えた瀬畑さんが現れた。 釣りはダメだった事を報告する。 イワナは無いけど、今夜は手作りの美味しいものを 沢山食べさせてくれると言う。 とても楽しみだ♪ |
小屋近くの河原には、さっきまでは無かったテントが一張り。 千葉県から来た3人の学生さんのものだった。 聞けば学生さん達は・・・ 予定のテン場まで来たので休んでいたら、森の中から瀬畑さんが現れた。 『あれっ?雑誌に出ている人じゃない?』 『まさか、似た人だよ。』 『でもあの格好、本物じゃないの??』 と半信半疑で見ていたら、近づいて話しかけて来たので確認すると、 やはり本物の瀬畑さんだった! 驚いた!! との事でした。 |
|
山の幸 |
小屋に戻ると、瀬畑さんの火起こしの実演。 ガムテープに火をつけて種火とし、 その上に束ねたまっすぐな枝を、 細い枝の束からドンドン乗せていく。 載せる束は、段々太い枝になっていく。 躊躇無く載せていく。 ポイントは、真っ直ぐな枝を、 全て同じ向きに乗せる事だそうな。 乗せてしまったら、火起こしの作業はおしまい。 特に、煙が出てきたら、 『いじってはいけない』との事でした。 こもった熱が、火を付ける(保つ)との事。 |
火が安定してきた頃・・・ 瀬畑さんは、小屋の外にあった『ボロボロの湿ったゴミ毛布』を焚火に被せた。 次に毛布をずらし、被せる部分を半分にした。 尋常ではない高さで炎は上がり、薪の燃える音がゴーゴーと聞こえてくるようだった。 ヒラリとマントのごとく毛布をどかすと、 一瞬大きくなったかに見えた炎は普通の大きさとなる。 『こもった熱が、炎を大きくするんだ』 それっ! 再び、ヒラリと半分毛布を被せ、炎が高く上がり天を焦がす。 炎の赤が、師のシルエットを浮かび上がらせる。 炎を自在に操る姿は、魔法を見ているようだった。 それっ! ヒラリ毛布を外すと、炎は普通の大きさとなる。 それっ! それっ!・・・ |
|
キノコ鍋 |
ヒラタケ・シイタケの天ぷら |
その夜は学生さんと合流し、 瀬畑さんの料理を囲み、渓語りに耳を傾けつつ親睦を深めた。 楽しい話に、盛り沢山の美味しい料理。 山で食べるからではなく、本当に美味しいのだ。 砂糖は『食材の旨味を閉じ込める』など、プロは調味料の味だけではなく、 効果まで承知して、味付けに使っている事を知った。 この夜も、瀬畑さんが話す色々な山のエピソードに一同大喜び♪ |
|
翁特製・手打渓うどん |
話しに夢中になっていると パンッ!パパン! 突然焚き火の中から炸裂音がした! 焚火の横に座っていた私は『うへぇ!』と驚く。 瀬畑さんは『アッハッハ♪さっき、落ちていた 花火を放り込んだんだ。ダイジだよ、ダイジ♪』 と大喜び。 締めは、瀬畑さんが目の前で打ってくれた 特製・渓うどんだ。 アッという間に、楽しい時間は過ぎていった。 笑い声が聞こえなくなると、辺りを真の闇が 包んでいく。 南アルプスの夜は、静かに静かに更けていった。 |
|
SEO | [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送 | ||