二日目の朝は冷え込んだ。 Mさんは、寒さで昨夜は熟睡できなかったようだ。 コーヒーで軽食を摂り、 荷物を小屋にデポして出発したのが5時半。 閉鎖中の聖平小屋新館の脇を通って縦走路へ向かう。 新館玄関脇にぶら下がっている温度計は0度。 聖平の木道には、白く霜が降りていた。 東の稜線に雲が見えるものの、 澄んだ空気が清々しい秋空である。 縦走路を聖岳方面に折れ、南は遠山方面、 東は上河内岳と、ぐんぐん広がる展望に嬉々とし、 知らず歩が早まる。 昨日は気付かなかったが、 辺りの気の早い木々は、葉を黄色に染めていた。 草原のフキにも勢いは無く、 枯れた侘しさを漂わせている。 薊畑の「便が島登山口」への分岐では、 「昨日の聖で100名山を完登した」というオバさんから、 聖岳手前の「命の水」の話を聞き、 以降、同水場を探しながら歩く事となる。 振り返ると、 いつの間にか聖平の赤い屋根が 遠くなっていた。 |
曙光を浴びる富士山 眼下の聖平小屋(赤い屋根) |
小聖岳山頂から上河内以南の稜線を望む |
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小聖岳山頂と聖岳 |
交互に現れる草原と疎林の中を歩き、 瓦礫の斜面を一登りすると 2662m峰・小聖岳の山頂に到着した。 目前には 聖岳本峰が端麗な山裾を広げている。 その手前の小聖岳は、 単なる通過点のピークではなく、 味わいある展望を楽しませてくれる 堂々たる南アルプスの一座であった。 今回の山歩きの「一座目」に 辿りついた喜びをMさんと分かち合い、 ここからは私が先行する。 |
なだらかなハイマツの丘をいくつか越えて、 ジグザグの瓦礫の急勾配をぐんぐん上がっていく。 なかなかピークを見せない他の山とは違い、 聖岳山頂は突然目の前に現れた。 一瞬目を疑ったが、まぎれもなく 本邦最南の3000m峰・(前)聖岳山頂であった。 遮るものの無い360度の展望は格別。 目前には、南アルプスの盟主・赤石岳が鎮座し、 東に大倉尾根、西には百間洞・大沢岳と続く 稜線を延ばしている。 |
聖岳山頂 |
奥聖岳(右奥) |
だいぶ雲が出てきたが、 秋の雲は稜線のはるか上。 一度として展望を遮る事はなかった。 東北東へ目をやると、 なだらかな尾根が奥聖岳へと続いている。 周りの景色、植生を楽しみつつ 歩いて行くこととした。 |
ななかまど |
百間洞(赤石沢源流) |
奥聖岳山頂と富士山 白蓬の頭と東尾根 奥聖北側の尾根 |
尾根の窪には、 ハイマツの緑にナナカマドの朱が映える。 対岸の百間洞の切れ込みに目をやると、 山の家の赤い屋根が、 景色にアクセントを与えていた。 汗をかく間もなく、 石積みと三角点だけの 静かな奥聖山頂に辿りつく。 見渡せば・・・ 赤石・聖の険谷を眼下に従えた頂は 辺りの奥深さを一層際立たせ、 前聖岳とは趣を異にするものであった。 実は、聖岳には翌年の夏に来るつもりだった。 8月の末頃・・・ Mさんと南アルプスの話題で盛り上がり、 ならばと急遽登る事になった。 夏は人ゴミにまみれるであろう人気の山域も、 秋は静寂に包まれ、 この時期に来て本当に良かったと、 同行してくれたMさんに心の中で感謝した。 昨夜は、小屋の周辺でも、 鹿が「糸を引くような長い泣き声」を 響かせていた。 Mさんは・・・ 「夜中に小屋の外へ出たら、 星の多さに感激した」 と話していた。 「星座は、下界で見るより大きく見えましたか?」 と尋ねると、苦笑いしたMさんは 「星が多すぎて、 馴染みの星座もよく分からなかった」 と話した。 |
奥聖から見る聖岳 |
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聖岳山頂に数人の姿が見える。 名残惜しいけど、 山上のテラスを後にする事とした。 来た道を帰るのは、 新鮮味が無く、楽しみも少なく退屈なもの。 しかし、奥聖から前聖への帰路は、 味わいある風景と 豊かな植生が 私を飽きさせなかった。 |
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コケモモ ブルーベリーの様な味の実 |
道中、コケモモが真っ赤に色づいていた。 数粒つまんで口の中に入れると、 シャリシャリとした歯ごたえ。 味を例えるなら「リンゴの皮?」のようだ。 夏よりも酸味はまろやかになっていた。 コケモモの脇を見ると、 美味しそうな濃紫色の実がなっていた。 ためらう事無く口に入れると、 酸味のきいたブルーベリーの様な味 が舌を刺激した。 |
前聖岳山頂では・・・ 我々よりも遅れて小屋を出発した3人が 思い思いに展望を楽しんでいた。 雰囲気から察するに、 爺さん・息子・孫の三世代登山と思われた。 彼らとは、 気持ちよく、お互いの写真を撮り合った。 そして、 眺めて良し・登って良しの 麗峰・聖岳山頂を後にする。。。 。。。はずであったが 遅れて到着し、山頂の隅で腰に手をやり 「ご満悦」の様子の単独の男性が 下山口に向かう我々を「ちょ、ちょっとちょっと!!」 と大慌てで追いかけてきた。 「邪魔しちゃ悪い」と、そっと帰ろうと思ったら、 シャッターを押してもらいたかったらしい(笑) |
下山路の先に聖平が見える |
遠山川・最初の一滴 頭上の雲に首を縮めながら行く |
聖岳南側は岸壁となっており、 そこから遠山川西沢の最初の一滴が にじみ出ている。 Mさんと、 「命の水は、これかな?」 「手前側を下るとあるかも?」 などと言いながら聖平を目指す。 結局、命の水はわからんかった。 なだらかな丘をいくつか越える。 この辺りは森林限界直下にあたり、 緑が豊富で展望も利く 歩いていて気持ちの良い道だった。 薊畑分岐を過ぎて聖平が目前となった時、 往路で脱いでデポしておいた シャツの回収を忘れている事に気付いた。 再び縦走路を登り返し、 懐かしいシャツとの再開を果たし、 無事聖平に帰りついた。 |
小屋に戻ると、荷物を整理しつつラーメンを食べる。 ほどなく週末登山者のグループがやって来た。 「今夜の宿はここだ」のリーダーの声の後、 ぞろぞろと小屋に入ってきた。 1人、2人・・・7人・・・13人・・・18人・・・ 数えるのをやめて、早々に小屋を出る事にした。 荷物をまとめて付近の床を掃除したら、 人と荷物で足の踏み場も無い小屋を後にした。 帰り道は、ひたすら下りに専念する。 登山口間近になると、 突然足元がオレンジ色に明るくなった。 木の枝越しに丸い空を見上げると、 夕日に照らされた雲がオレンジ色に輝いていた。 |
聖 平 |
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