平成14年9月 聖岳 【二日目】
 
二日目の朝は冷え込んだ。
Mさんは、寒さで昨夜は熟睡できなかったようだ。

コーヒーで軽食を摂り、
荷物を小屋にデポして出発したのが5時半。
閉鎖中の聖平小屋新館の脇を通って縦走路へ向かう。

新館玄関脇にぶら下がっている温度計は0度。
聖平の木道には、白く霜が降りていた。
東の稜線に雲が見えるものの、
澄んだ空気が清々しい秋空である。

縦走路を聖岳方面に折れ、南は遠山方面、
東は上河内岳と、ぐんぐん広がる展望に嬉々とし、
知らず歩が早まる。

昨日は気付かなかったが、
辺りの気の早い木々は、葉を黄色に染めていた。

草原のフキにも勢いは無く、
枯れた侘しさを漂わせている。

薊畑の「便が島登山口」への分岐では、
「昨日の聖で100名山を完登した」というオバさんから、
聖岳手前の「命の水」の話を聞き、
以降、同水場を探しながら歩く事となる。

振り返ると、
いつの間にか聖平の赤い屋根が
遠くなっていた。

曙光を浴びる富士山

眼下の聖平小屋(赤い屋根)

小聖岳山頂から上河内以南の稜線を望む

小聖岳山頂と聖岳
 
交互に現れる草原と疎林の中を歩き、
瓦礫の斜面を一登りすると
2662m峰・小聖岳の山頂に到着した。

目前には
聖岳本峰が端麗な山裾を広げている。

その手前の小聖岳は、
単なる通過点のピークではなく、
味わいある展望を楽しませてくれる
堂々たる南アルプスの一座であった。

今回の山歩きの「一座目」に
辿りついた喜びをMさんと分かち合い、
ここからは私が先行する。

なだらかなハイマツの丘をいくつか越えて、
ジグザグの瓦礫の急勾配をぐんぐん上がっていく。

なかなかピークを見せない他の山とは違い、
聖岳山頂は突然目の前に現れた。

一瞬目を疑ったが、まぎれもなく
本邦最南の3000m峰・(前)聖岳山頂であった。

遮るものの無い360度の展望は格別。
目前には、南アルプスの盟主・赤石岳が鎮座し、
東に大倉尾根、西には百間洞・大沢岳と続く
稜線を延ばしている。
 


聖岳山頂

奥聖岳(右奥)
だいぶ雲が出てきたが、
秋の雲は稜線のはるか上。
一度として展望を遮る事はなかった。

東北東へ目をやると、
なだらかな尾根が奥聖岳へと続いている。

周りの景色、植生を楽しみつつ
歩いて行くこととした。

ななかまど

百間洞(赤石沢源流)

奥聖岳山頂と富士山

白蓬の頭と東尾根

奥聖北側の尾根
 
尾根の窪には、
ハイマツの緑にナナカマドの朱が映える。

対岸の百間洞の切れ込みに目をやると、
山の家の赤い屋根が、
景色にアクセントを与えていた。

汗をかく間もなく、
石積みと三角点だけの
静かな奥聖山頂に辿りつく。

見渡せば・・・
赤石・聖の険谷を眼下に従えた頂は
辺りの奥深さを一層際立たせ、
前聖岳とは趣を異にするものであった。


実は、聖岳には翌年の夏に来るつもりだった。

8月の末頃・・・
Mさんと南アルプスの話題で盛り上がり、
ならばと急遽登る事になった。

夏は人ゴミにまみれるであろう人気の山域も、
秋は静寂に包まれ、
この時期に来て本当に良かったと、
同行してくれたMさんに心の中で感謝した。


昨夜は、小屋の周辺でも、
鹿が「糸を引くような長い泣き声」を
響かせていた。

Mさんは・・・ 
「夜中に小屋の外へ出たら、
星の多さに感激した」
と話していた。

「星座は、下界で見るより大きく見えましたか?」
と尋ねると、苦笑いしたMさんは
「星が多すぎて、
馴染みの星座もよく分からなかった」
と話した。
 

奥聖から見る聖岳
 
聖岳山頂に数人の姿が見える。

名残惜しいけど、
山上のテラスを後にする事とした。

来た道を帰るのは、
新鮮味が無く、楽しみも少なく退屈なもの。

しかし、奥聖から前聖への帰路は、
味わいある風景と
豊かな植生が
私を飽きさせなかった。



コケモモ

ブルーベリーの様な味の実
 
 
道中、コケモモが真っ赤に色づいていた。

数粒つまんで口の中に入れると、
シャリシャリとした歯ごたえ。
味を例えるなら「リンゴの皮?」のようだ。

夏よりも酸味はまろやかになっていた。





コケモモの脇を見ると、
美味しそうな濃紫色の実がなっていた。

ためらう事無く口に入れると、
酸味のきいたブルーベリーの様な味
が舌を刺激した。
 
前聖岳山頂では・・・
我々よりも遅れて小屋を出発した3人が
思い思いに展望を楽しんでいた。

雰囲気から察するに、
爺さん・息子・孫の三世代登山と思われた。
彼らとは、
気持ちよく、お互いの写真を撮り合った。

そして、
眺めて良し・登って良しの
麗峰・聖岳山頂を後にする。。。


。。。はずであったが

遅れて到着し、山頂の隅で腰に手をやり
「ご満悦」の様子の単独の男性が
下山口に向かう我々を「ちょ、ちょっとちょっと!!」
と大慌てで追いかけてきた。

「邪魔しちゃ悪い」と、そっと帰ろうと思ったら、
シャッターを押してもらいたかったらしい(笑)

下山路の先に聖平が見える

遠山川・最初の一滴

頭上の雲に首を縮めながら行く
 
聖岳南側は岸壁となっており、
そこから遠山川西沢の最初の一滴が
にじみ出ている。

Mさんと、
「命の水は、これかな?」
「手前側を下るとあるかも?」
などと言いながら聖平を目指す。

結局、命の水はわからんかった。





なだらかな丘をいくつか越える。

この辺りは森林限界直下にあたり、
緑が豊富で展望も利く
歩いていて気持ちの良い道だった。

薊畑分岐を過ぎて聖平が目前となった時、
往路で脱いでデポしておいた
シャツの回収を忘れている事に気付いた。

再び縦走路を登り返し、
懐かしいシャツとの再開を果たし、
無事聖平に帰りついた。
 
小屋に戻ると、荷物を整理しつつラーメンを食べる。
 
ほどなく週末登山者のグループがやって来た。
「今夜の宿はここだ」のリーダーの声の後、
ぞろぞろと小屋に入ってきた。
1人、2人・・・7人・・・13人・・・18人・・・

数えるのをやめて、早々に小屋を出る事にした。
荷物をまとめて付近の床を掃除したら、
人と荷物で足の踏み場も無い小屋を後にした。

帰り道は、ひたすら下りに専念する。

登山口間近になると、
突然足元がオレンジ色に明るくなった。

木の枝越しに丸い空を見上げると、
夕日に照らされた雲がオレンジ色に輝いていた。

聖 平
 
 
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