【一日目】 |
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今回は、前年に暴風雨で中止したコースを再び辿る。 大井川・東俣を遡行し白峰山脈を南下、 広河内岳から池ノ沢を下り戻る計画だ。 二軒小屋には7人程の登山者グループがいた。 東俣を遡行した後、私とは逆の赤石山脈を南下し、 蝙蝠尾根を下ってくる予定だそうな。 それぞれ別々に出発。 抜きつ抜かれつ上流を目指す。 |
かつての作業小屋 |
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東俣林道は、先日の大雨で荒れていた。 スタスタと進み、広河原をザブザブ渡渉を繰り返して歩いていく。 池ノ沢出合いを越え、その上の作業小屋で一休みする。 何だか怪しげな天気だけど、少し休憩したら小屋を出る。 白根沢出合いまで来ると、遠くの稜線直下に赤い屋根が見えた。 熊ノ平小屋だ。 結構奥深くまで来た事を実感する。 実は、この辺りには、今でも昔の山道が残っている。 山道に入ったり、沢身に戻ったりしながら、滝ノ沢出合いに差し掛かる 滝ノ沢から1時間。 東俣唯一の滝(通称魚止の滝)まで来た。 滝は右岸から巻き、その上の乗越沢出合いをテン場とし、 背負っていた荷物をおろす。 とりあえず、木立の中に『露凌ぎ』を張る。 ビール飲み飲み、御飯を腹に収める。 明日の天気はどうだろうか? そんな事を心配しながらシュラフに入る。 ロウソクの火がユラユラと揺れる。 暫くはラジオを聴いていたが、退屈な話ばかりなので切る。 シュラフに潜ると、頭の少し先を生き物が歩いていくのが分かった。 あぁ、噛まれなくて良かった♪ |
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三国沢 |
寝 床 |
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【二日目】 |
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目覚めれば、天気は良さそうだ。 御飯の残りを暖めて、ラジオの松田聖子の曲を聴きつつ食べていると、 赤石山脈グループが目の前を通り過ぎていった。 まだ日は差さず、ひんやりと冷たい空気が気持ちいい。 私も、足取り軽く出発する。 |
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三国沢の朝 |
稜線が見えてきた |
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三国沢は、思っていたよりも懐の浅い沢だ。 スタスタ歩いて行くと、いつの間にか間ノ岳沢(農鳥沢)出会いに到着した。 ここは一つの目的の場所だった。 感慨深く、辺りの風景を眺める。 俗説だけど、この付近が『日本の魚族が生息する最高標高地点』と言われている場所だ。 泊まりたいところだけど、日程の都合もあり先を急ぐ。 |
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間ノ岳沢出合い直下 |
花 |
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間ノ岳沢出合いを通り過ぎ、三国沢を忠実に詰めて行く。 極端に水量が減る。 勾配も急になってきた。 途中、獣の雰囲気が強い場所に差し掛かる。 草を食べた跡・足跡・ホカホカの糞があり、直ぐそばに居るのが分かった。 わざと音を立てながら進む。 辺りにはフキが群生していた。 そう云えば、こういう場所を好み出没すると聞いたことがある。 |
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三国沢 |
フキの群生 |
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グングン高度感が増していく。 水流が心細くなってきたので水を汲み、一休みして食事にする。 素晴らしい眺めに、尻から根っこが生えそうだ。 |
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東俣を見下ろしつつ休憩 |
見上げれば、もう少しで森林限界 |
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腹を満たしたら、再び喘ぎ登り始める。 下ばかり見て歩いていた。 アレツ?と思ったら、突然森林限界を抜け出していた。 そこは間ノ岳南面の巨大なカール地形。 辺りは、どこまでも大らかな自然の庭園。 風の音と、稀に落石の音しか聞こえない 不思議な世界がそこにあった。 |
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間ノ岳南面 |
間ノ岳南面 |
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大井川、最初の一滴 |
自然の庭園 |
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登山道(巻き道)に出た所で、何だか雲行きが怪しくなってきた。 稜線は、既にガスの中。 稜線へ詰め上がるのを止め、農鳥小屋に向けて巻き道を行く事にした。 遠くハイマツの中に、黄色いカッパを着た登山者が見えた。 すれ違う時、言葉を交わす。 どこから来て、どこに行くのかを聞いてきた。 話をしながら、私の服装を観察していた。 『遭難事故が起きた時の為』と察し、私も同じ様に観察し、 同じ様な事を聞き返す。 互いの無事を願い、それぞれ別々の方向に進む。 |
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東俣遡行が終わってしまった |
巻き道 |
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ハイマツの中の、登り下りを繰り返す。 高い場所に出てホッとすると、登山道の先に雷鳥がいた。 初めて見る雷鳥に感激した。 その雷鳥の近くには、もう一羽小さな雷鳥が居た。 私が登山道を進んで行くと、2羽の雷鳥は、私から逃げるように先へ歩いて行ったが、 そのうちに、大きい方の雷鳥が意を決したように立ち止まり、 突如私に向かって歩いて来た。 子どもを逃がす為、自らが囮になったのか? 雷鳥は、私の横を擦れ違ったが、私から顔を背けて目を合わさなかった。 恐怖を我慢して、子を思う必死の思いで向かって来たのかもしれない。 私にしてみれば、雷鳥を遠くから撮影後、登山道を進んで行っただけなのだけど、 雷鳥には申し訳ない事をしてしまった。 本当に申し訳無い。 |
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雷 鳥 |
目を背けて擦れ違う |
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実は、雷鳥の心配をしている場合じゃなかった。 空はどんどん暗くなり、そのうちに、突然土砂降りになった。 既にカッパは着ていたけど、そのうちに雨はアラレとなり、体に叩きつけてきて痛いの何の。 更に、積もったアラレは、辺り一面真っ白にしてしまった。 下を向いて、急勾配を上がっていると再び雨、土砂降りになった。 白峰稜線に出て南に進路を取る。 『あと少しで山小屋だ』 そう思った時、遠くでカミナリが聞こえた。 『マズイ』と、慌てて目の先の農鳥小屋へ向かう。 小屋の敷地に入ってホッとし、立ち止まった時・・・ ・・・小屋の避雷針に、轟音と共に稲妻が落ちた。 避雷針から、私の方に小さな稲光が飛んで来るのが見えた。 帽子天頂の金具付近に飛んで来たと思った。 天頂にショックが走った。 ショックの直後、目の前が一瞬青白くなった。 私は『あーーーーっ!』と声を上げ、気が着くと、土砂降りの中、地面に伏せて倒れていた。 頭の天頂が、ジンジンしていた。 柔軟な樹脂で作られた眼鏡が、鼻の金具の所で二つになっていた。 フラフラと歩きながら、小屋の前にいた従業員に事情を話す。 暫く小屋の中で静かにし、落ちついた所で申し込みの手続きをした。 眼鏡は、持参のテーピングで補修したが、曲がってしまって具合が悪かった。 |
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【三日目】 |
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『バカども起きろー!』 小屋のご主人に、全員起こされる。 私は、朝食を頼んでいなかったので、レトルトのカレーを暖めて食べた。 横で寝ていたどこかの子どもが、私を指差して『おじさんカレー!カレー!』と、 私がカレーを食べる様子を見て笑っていた。 外に出ると、とてもイイ天気♪ 山はいいなぁ。 空気も美味しいし、景色も最高♪ 女の子なんて、全員美人に見える。 農鳥ーヘップバーン? この日は、それ以降このくだらないダジャレが頭から離れなかった(笑) |
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農鳥小屋の朝 |
西農鳥岳から間ノ岳方面 |
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西農鳥の登りは辛かった。 でも、歩く度に広がる展望が、私の足を前に進めてくれた。 農鳥岳付近からは、昨日東俣から見上げた『熊ノ平小屋』を、見おろす事が出来た。 その向こうには伊奈谷が。 |
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未だ日が差さぬ、三国沢源頭 |
乗越沢の切込みと熊ノ平小屋 |
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南へ目をやれば、塩見岳、蝙蝠岳、悪沢岳・・・。 近くて遠い、南ア南部の山々が一望できた。 今回のコースは、何年か前に関心を持ってから山というものについて調べ、装備を揃え、地形図の見方を憶えた。 山岳会にも入っておらず、山屋でもなんでも無い私にとっては大変な労力でした。 ただ、地形図を何度も目で辿ったおかげで、 机上で想像したとおりの地形を、目にした喜びはひとしおでした。 逆に、人に連れて来られたような来方だったら、 これ程までの嬉しさは無かっただろうなと思いました。 |
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塩見・悪沢・蝙蝠 |
滝ノ沢 |
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富士山 |
白峰山脈 |
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大門沢下降点で、遭難碑に目を通した。 山は厳しいものだな。 ガランガランと鐘を鳴らし、白峰三山縦走路から外れて広河内岳を目指す。 楽しい雲上散歩も、残り後わずか。 風景を目に焼き付けながら、トボトボと南に進む。 |
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北 岳 |
大門沢下降点、広河内岳・大篭岳方面 |
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大門沢 |
ヘリが上がってきた |
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何度か登り下りを繰り返して広河内山頂に着くと、既にそこはガスの中だった。 ヤバイヤバイ 昨日の事が脳裏によみがえった私は、急いで池ノ沢に向かって下り始めた。 結構急な勾配である。 |
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塩見岳 |
広河内岳山頂 花 |
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池ノ沢源頭 |
暫く下ると緩やかな下りとなり、ハイマツが現れる。 小鳥たちのさえずりが聞こえる。 間もなく、水が湧いている場所に差し掛かる。 これは甘露と、喜び口に含む。 すべる草地に四苦八苦して、這いつくばった地面に キャンディーの包みのゴミを発見し、そこから先は、 キャンディーのゴミを拾いつつ進むようになる。 こんな素晴らしい所に来て、何故ゴミを捨てる? とても悲しい気持ちになったが、私が拾えば次に 来た人はきっと。。。 |
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再び水音が聞こえてきた。 南アルプスの瞳・池ノ沢池だ。 湖畔に立つと、何とも言えない奥深さと、神秘的な雰囲気があった。 水は清み、豊かな緑が湖面にまではみ出している。 再び訪れたときには、是非一夜を過ごしたいと思った。 それほど素敵な場所だった。 |
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池ノ沢池 |
池ノ沢池 |
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池を後にする時、とうとう雨粒が落ちてきた。 その雨は、暫くすると雷雨になった。 雷の音を聞くと、身がすくんで体が重くなるのが分かった。 何とか、無人の池ノ沢小屋に辿り着いた。 濡れた服を着替え、ありったけの物を放り込んだラーメンを作った。 聞けば、皆さん驚くようなラーメンだけど、 これが意外と美味しく元気が出た。 以後、私の定番となるこのラーメン。 いつか機会があったら紹介します。 |
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【四日目】 起きたら、二軒小屋目指して下り始めた。 ゆっくり休んで元気一杯である。 二軒小屋の手前で、赤石山脈グループと一緒になった。 お互いの健闘を称え合い、帰路についた。 |
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農鳥小屋のご主人と |
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