平成14年8月 北岳〜間ノ岳〜塩見岳〜蝙蝠岳 【四日目】
 
 
 
寝ている間、三日目に怪我をした右目が痛かった。
まぶたの上に何かが触れただけで、「あぁー!」と声を出すほど痛かった。
鏡が無いから、どうなっているのかも分からない。

暴風と雨は、夜通し続いた。
「雪投沢を下ろうか?停滞しようか?徳右衛門まで無理して尾根を行く?」
昨夜は、そんな事ばかりグルグル考えていた。
 
  雪投沢源頭
ツエルトの中から見上げる 
 
明け方のはずだけど、まだ暗い。
ゴアテックスのシュラフカバーからヒョコリ首を出すと、
ツエルトの中は何もかも「びしょ濡れ」だった。

まだ強い風が吹いている。
ツエルトが膨れたりペチャンコになったりを繰り返している。
再び、シュラフカバーの中に首を引っ込め、カバーの口を閉める。
動く気にならず、もう一泊してもいいやなんて考える。
迷わず二度寝。

外の気配が変った気がしてカバーから首を出す。
なんとツエルトに朝日が当っている??
急いでツエルトから首を出し、背後の山を見上げると、ガスがかかっているものの雨は止み、
稜線の上には時々青空がのぞく。

よし!
ようやく行く気になる。
ツエルトの中で急いでラーメンを作り、腹が膨れたら、とっとと荷物をまとめて出発した。

朝一番の北俣岳の登りは、急勾配と横っ風との戦いだ。

出発してすぐ、大井川側からガスが上がってきた。
そのうちすっかりガスに包まれ、信州側の展望も無くなった。
時々、猛烈な風が吹いてガスが散ると、雪投沢の谷筋が見えるが、
すぐにガスがかかって見えなくなる。
登っているはずの塩見岳も、後ろの北荒川岳も何にも見えない登りが続く。
  
北俣岳分岐から仙丈岳方面を望む
北の稜線を望む(右が大井川、左が信州)

体が暖まった頃、北俣岳分岐に着いた。
ここは、蝙蝠尾根と塩見岳方面の分岐だ。
塩見・蝙蝠方面のガスが薄く、
高い場所に立っていたおじさんに塩見の山頂を尋ねると、
「あそこだよ」と指差して教えてくれた。
ザックをデポして、塩見岳山頂目指して出発した。

細尾根を渡る時、強風にさらされた。
落ちたらどうなるか考えるとドキドキする。
路は、そのうち急坂になる。
上がり切ると、そこが塩見岳東峰だった。
塩見岳東峰
ガスで、何にも見えない
塩見岳西峰
三角点のある塩見岳西峰

山頂はガスの中。
360度真っ白けで何も見えない。
早々に山頂を辞して、来た路を戻る。

山頂から少し下ると、正面のガスが切れ、
蝙蝠岳が現れた。
 今回の山歩き最大の楽しみが、
蝙蝠岳の登頂と蝙蝠尾根を歩く事だった。

どんな山かは調べ尽くしてあった。
しかし、どれだけの記録や写真を見ても、
「これから歩くんだ」と言う緊張感と共に見る本物は、
やはり雰囲気・迫力共ちがう。

嬉しくて、ついつい足が早くなる。
 
蝙蝠岳
塩見岳から望む蝙蝠岳
塩見岳
塩見岳を振り返る

分岐に戻り、ザックを背負う。
蝙蝠尾根に入り、雪投沢側を巻いて行く。

強風が吹き付ける。
痩せた部分や岩場を行く時は、より慎重になる。
そのうち広く大らかな尾根上を歩くようになる。
この辺りまで来ると、幾分風が
弱まった気がする。

振り返ると・・・

周りを威圧するような塩見岳と、
そこから派生し北俣沢に落ちていく幾枚ものひだは、
南アルプスの真っ只中に居る喜びと
今日でお別れとなる寂しさを
胸に湧き上がらせた。
 
大井川・小西俣
大井川西俣・小西俣の切れ込み

大井川西俣を挟んだ対岸に、
先月遡行した小西俣を俯瞰する。
沢の中では分からなかったが、穏やかな小西俣も、
それなりの勾配で突き上げている。
ふむふむ、あれが上岳沢。
これが黄蓮沢。

楽しみにしていた悪沢岳の眺望は、生憎のガスの中。
結局、対岸の稜線を伺う事はできなかった。
 
なおも、広く太い尾根を行く。
何処までも続くような長い登りの終点が、
標高2865m・蝙蝠岳山頂であった。
 
蝙蝠岳
蝙 蝠 岳
蝙蝠岳山頂・遠く塩見岳
蝙蝠岳山頂

静かな山頂にザックを下ろし、
スナックやリンゴをかじって大休憩。

コンロを出してコーヒーを沸かす。
体は暖まったが、味は特別なものは無くいつもの味。
冴えない凡人が、ここまで来れた。
それが嬉しい。
 
 
水が少なくなってきた。
徳右衛門岳の水場を目指して出発する。

間もなく、尾根は樹林の中や船窪を行くようになる。

対岸や下界からは窺い知る事の出来なかった
自然が作った「船窪の中の箱庭」を行く喜び。

この頃から、右目が再び痛くなってきた。
痛くて涙が止まらなり、立ち止まって
進めなくなる事しばしば。

痛みが治まっても、
右目の焦点が合わなくて目が回る。
それでも何とか歩いて行く。
 
蝙蝠尾根の登山道
トリカブト咲く、船窪状の縦走路

私は、こまめな水分補給を心掛けているが、
この時ばかりは、少ない水を節約しながら行く。
たっぷりガブガブと、水を飲みたい衝動を抑える。
徳右衛門に辿りつけば存分に・・・。

しかし、目が回るし、なかなか歩みははかどらない。
いよいよ山頂間近になると、似たような登り下りの連続に
「これを登れば徳右衛門?」との期待は、何度も何度も裏切られた。
 
徳右衛門岳山頂
徳右衛門岳山頂
 
蝙蝠岳から2時間後、目の前に指導標が現れた。
標高2599m・徳右衛門岳に辿りついた。

おぉ、やった!!
道標脇にバタリうつ伏せになり、
ザックの肩紐を抜きつつ仰向けになる。
なんと、この時ザックの「熊追いの鈴」を落としたらしい。
後から後悔する。。

少し休んだら、出発する。
水場は、この少し先にあると聞いていた。
数分行くと、水場の看板が現れた。
 
水場の看板の脇にザックを置き、水筒を手に径を下る。
ハッキリした踏跡の途中から
脇へ下っていくと水を得る事ができる。

トリカブト群生地の下から湧き出す、清らかな甘露。
心地よい水音に、たまらず何杯も飲む♪

水筒に注ぎ込んで急斜面を上り返す。
ザックの場所に戻ると、湯を沸かす。
ラジオを聴きながら温かソーメンをこしらえ、
余ったお湯でコーヒーを楽しむ。

うーん、満足♪

楽しい雲上散歩も、終わりに近付いた。
あとは、目の不具合で転倒せぬよう気を付けつつ、
樹林帯の踏み跡を辿って、二軒小屋を目指した。
 
 


 
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