寝ている間、三日目に怪我をした右目が痛かった。 まぶたの上に何かが触れただけで、「あぁー!」と声を出すほど痛かった。 鏡が無いから、どうなっているのかも分からない。 暴風と雨は、夜通し続いた。 「雪投沢を下ろうか?停滞しようか?徳右衛門まで無理して尾根を行く?」 昨夜は、そんな事ばかりグルグル考えていた。 |
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ツエルトの中から見上げる |
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明け方のはずだけど、まだ暗い。 ゴアテックスのシュラフカバーからヒョコリ首を出すと、 ツエルトの中は何もかも「びしょ濡れ」だった。 まだ強い風が吹いている。 ツエルトが膨れたりペチャンコになったりを繰り返している。 再び、シュラフカバーの中に首を引っ込め、カバーの口を閉める。 動く気にならず、もう一泊してもいいやなんて考える。 迷わず二度寝。 外の気配が変った気がしてカバーから首を出す。 なんとツエルトに朝日が当っている?? 急いでツエルトから首を出し、背後の山を見上げると、ガスがかかっているものの雨は止み、 稜線の上には時々青空がのぞく。 よし! ようやく行く気になる。 ツエルトの中で急いでラーメンを作り、腹が膨れたら、とっとと荷物をまとめて出発した。 朝一番の北俣岳の登りは、急勾配と横っ風との戦いだ。 出発してすぐ、大井川側からガスが上がってきた。 そのうちすっかりガスに包まれ、信州側の展望も無くなった。 時々、猛烈な風が吹いてガスが散ると、雪投沢の谷筋が見えるが、 すぐにガスがかかって見えなくなる。 登っているはずの塩見岳も、後ろの北荒川岳も何にも見えない登りが続く。 |
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北の稜線を望む(右が大井川、左が信州) |
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体が暖まった頃、北俣岳分岐に着いた。 ここは、蝙蝠尾根と塩見岳方面の分岐だ。 塩見・蝙蝠方面のガスが薄く、 高い場所に立っていたおじさんに塩見の山頂を尋ねると、 「あそこだよ」と指差して教えてくれた。 ザックをデポして、塩見岳山頂目指して出発した。 細尾根を渡る時、強風にさらされた。 落ちたらどうなるか考えるとドキドキする。 路は、そのうち急坂になる。 上がり切ると、そこが塩見岳東峰だった。 |
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ガスで、何にも見えない |
三角点のある塩見岳西峰 |
山頂はガスの中。 360度真っ白けで何も見えない。 早々に山頂を辞して、来た路を戻る。 山頂から少し下ると、正面のガスが切れ、 蝙蝠岳が現れた。 今回の山歩き最大の楽しみが、 蝙蝠岳の登頂と蝙蝠尾根を歩く事だった。 どんな山かは調べ尽くしてあった。 しかし、どれだけの記録や写真を見ても、 「これから歩くんだ」と言う緊張感と共に見る本物は、 やはり雰囲気・迫力共ちがう。 嬉しくて、ついつい足が早くなる。 |
塩見岳から望む蝙蝠岳 |
塩見岳を振り返る |
分岐に戻り、ザックを背負う。 蝙蝠尾根に入り、雪投沢側を巻いて行く。 強風が吹き付ける。 痩せた部分や岩場を行く時は、より慎重になる。 そのうち広く大らかな尾根上を歩くようになる。 この辺りまで来ると、幾分風が 弱まった気がする。 振り返ると・・・ 周りを威圧するような塩見岳と、 そこから派生し北俣沢に落ちていく幾枚ものひだは、 南アルプスの真っ只中に居る喜びと 今日でお別れとなる寂しさを 胸に湧き上がらせた。 |
大井川西俣・小西俣の切れ込み |
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大井川西俣を挟んだ対岸に、 先月遡行した小西俣を俯瞰する。 沢の中では分からなかったが、穏やかな小西俣も、 それなりの勾配で突き上げている。 ふむふむ、あれが上岳沢。 これが黄蓮沢。 楽しみにしていた悪沢岳の眺望は、生憎のガスの中。 結局、対岸の稜線を伺う事はできなかった。 なおも、広く太い尾根を行く。 何処までも続くような長い登りの終点が、 標高2865m・蝙蝠岳山頂であった。 |
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蝙 蝠 岳 |
蝙蝠岳山頂 |
静かな山頂にザックを下ろし、 スナックやリンゴをかじって大休憩。 コンロを出してコーヒーを沸かす。 体は暖まったが、味は特別なものは無くいつもの味。 冴えない凡人が、ここまで来れた。 それが嬉しい。 |
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水が少なくなってきた。 徳右衛門岳の水場を目指して出発する。 間もなく、尾根は樹林の中や船窪を行くようになる。 対岸や下界からは窺い知る事の出来なかった 自然が作った「船窪の中の箱庭」を行く喜び。 この頃から、右目が再び痛くなってきた。 痛くて涙が止まらなり、立ち止まって 進めなくなる事しばしば。 痛みが治まっても、 右目の焦点が合わなくて目が回る。 それでも何とか歩いて行く。 |
トリカブト咲く、船窪状の縦走路 |
私は、こまめな水分補給を心掛けているが、 この時ばかりは、少ない水を節約しながら行く。 たっぷりガブガブと、水を飲みたい衝動を抑える。 徳右衛門に辿りつけば存分に・・・。 しかし、目が回るし、なかなか歩みははかどらない。 いよいよ山頂間近になると、似たような登り下りの連続に 「これを登れば徳右衛門?」との期待は、何度も何度も裏切られた。 |
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徳右衛門岳山頂 |
蝙蝠岳から2時間後、目の前に指導標が現れた。 標高2599m・徳右衛門岳に辿りついた。 おぉ、やった!! 道標脇にバタリうつ伏せになり、 ザックの肩紐を抜きつつ仰向けになる。 なんと、この時ザックの「熊追いの鈴」を落としたらしい。 後から後悔する。。 少し休んだら、出発する。 水場は、この少し先にあると聞いていた。 数分行くと、水場の看板が現れた。 |
水場の看板の脇にザックを置き、水筒を手に径を下る。 ハッキリした踏跡の途中から 脇へ下っていくと水を得る事ができる。 トリカブト群生地の下から湧き出す、清らかな甘露。 心地よい水音に、たまらず何杯も飲む♪ 水筒に注ぎ込んで急斜面を上り返す。 ザックの場所に戻ると、湯を沸かす。 ラジオを聴きながら温かソーメンをこしらえ、 余ったお湯でコーヒーを楽しむ。 うーん、満足♪ 楽しい雲上散歩も、終わりに近付いた。 あとは、目の不具合で転倒せぬよう気を付けつつ、 樹林帯の踏み跡を辿って、二軒小屋を目指した。 |
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